陸前高田市②
陸前高田市には「高田の松原」という有名な松原が海岸線にあった。
松林の松の本数は数万本とも言われていた。
その松原は陸前高田市の市街地の大半と共に津波で消滅した。
大津波に襲われた松林であるが、奇跡的に一本の松の木が生き残った。
その松は被災した人々の希望の象徴として「奇跡の一本松」と言われた。
「奇跡の一本松」はしばらくは生きて、人々に希望と勇気を与え続けていた。
しかしながら多くの人々の努力も願いもむなしく、ついに枯れてしまった。
今は人工の「奇跡の一本松」が往時の姿のまま立っている。
昨年(令和2年)11月、新型コロナ禍が落ち着いた隙間をぬって陸前高田を訪れた。
ほぼ全域が津波に襲われた市街地は地盤のかさ上げがほぼ終わり、ビルや民家の建設が始まり、市街地再建の段階であった。
かつて高田の松原のあった場所は、今は「高田松原津波復興記念公園」としてすっかり姿を変えている。
写真-1はその全景である。
写真中央の建物は図-1に示す「いわて津波メモリアル」で、内部はゾーン1からゾーン4まであり、津波震災のことを忘れない、そして未来を創るための展示がある。
「高田松原津波復興記念公園」の中央から海に向かって歩くと、前方に10mは越す高さの巨大な堤防がある。
その堤防を越えて海側には、数えきれない松の苗が植えてある。
長い時間をかけて高田の松原の復元を願っての植林である。
堤防に沿って右手に行くと、「奇跡の一本松」が立っている。
図-1に示すように、「いわて津波メモリアル」の4つのゾーンは以下のような内容になっている。
ゾーン1:歴史をひもとく
津波災害を歴史的・科学的視点からひもとき、古来、育まれてきた災害も含む自然の中で生きる知恵や技術、文化を見つめ直し、自然とともに暮らすということを改めて考える。
ゾーン2:事実を知る
被災した実際の物、被災の現場をとらえた写真、被災者の声、記録などを通して、東日本大震災津波の事実を見つめなおす。
ゾーン3:教訓を学ぶ
逃げる、助ける、支えるなど、東日本大震災津波の時の人々の行動をひもとくことで、命を守るための教訓を共有する。
ゾーン4:復興をともに進める
国内外からの多くの支援に対する感謝の気持ちとともに、東日本大震災津波を乗り越えて前へと進んでいく被災地の姿を伝える。
陸前高田市の市街地も海岸線も被災直後とはすっかり姿を変えている。
ここ「高田松原津波復興記念公園」には多くの観光バスや自家用車が訪れ、多くの人でにぎわっていた。
見た目には着実に復興が進んでいるかのように見えるが、10年経った今もかさ上げが済んだ土地に人家の数は少ない。
いったん失われた生活の場はそう簡単には戻って来いないということが切々と伝わってきた。