その54. 台風シーズン③
今やすっかりおなじみになった「線状降水帯」、その発生予報がこの6月1日から始まりました。
そのこと、およびその発生メカニズムについては「その50」および「その51」で書きました。
現在はその予報の当たる確率は25%程度ということですが、その精度を上げる研究が防災科学技術研究所をはじめ大学等の協力で進められています。
線状降水帯の予測精度向上には、線状降水帯を構成する積乱雲の誕生、成長、移動などを高精度に予測することが必要になります。
その予測には、雨の基になる、高度約1km以下の大気中に含まれる水蒸気の量を把握することが重要になります。
特に積乱雲ができ始める前の水蒸気量を観測することで、積乱雲の発生が予測可能となり、線状降水帯の予測精度が飛躍的に向上することが分かっています。
図は線状降水帯が多発する九州地方に整備されている世界一密度の高い水蒸気観測網です。
地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測(以下、「地デジ水蒸気観測」)、水蒸気ライダー観測、マイクロ波放射計観測、航空機観測、ドローン観測などです。
空気中の水蒸気量が増えると、非常にわずかですが、電波の伝わる速度が遅くなります。
地デジ水蒸気観測はこのわずかな変化をとらえて、電波の伝わる経路の水蒸気量を観測する技術です。
水蒸気ライダー観測は水蒸気の鉛直方向の分布を測定し、マイクロ波放射計は鉛直方向に分布する水蒸気の総量を測定します。
航空機観測、ドローン観測では直接水蒸気量を観測します。
現在、これらの測定結果を統合して線状降水帯の発生を予測した結果は、図中の九州の自治体に配信され、予測精度の検証と予測情報の利活用の検討が行われています。
実は、陸上だけでなく、海洋上の水蒸気量、九州でいえば東シナ海や太平洋上の水蒸気量を精度よく観測することがより前の段階での予測に重要な役割を果たします。
洋上の水蒸気量の観測に関する研究も現在航空機や人工衛星を使って行われており、今は当たる確率が25%程度ですが、いずれ50%、あるいはそれ以上になるものと思われます。