第六十一段:大規模災害に備える ~地上、海底観測システムの展開~
テレビでの放映は終わったのに、相変わらず「日本沈没」にこだわっているようですが、ドラマ「日本沈没」の中で、“スロースリップ”と言う言葉がたびたび出てきました。
“スロースリップ” とは、その英語の意味する通り、“ゆっくりすべり”と言う意味です。
“スロースリップ”が日本各地で観測され、ゆっくりと(でもなかったですが)日本列島が太平洋に沈んでいく、という意味合いで使われました。
実はこの“スロースリップ”と言う言葉、地震学の分野で実際に使われる専門用語にある言葉なのです。
ただドラマとはだいぶ違った意味を持っています。
地震とは、地下の岩盤(プレート)に蓄積されたひずみエネルギーが断層のすべり運動(断層の破壊とも言います)によって解放される現象です。
通常の地震では、断層が1秒間に約1mというオーダーの速度ですべり、地震波を放射します。
海底が上下方向に動くと海水を押し上げて津波も発生させます(図-1)。
一方、“スロースリップ”はそれよりもゆっくりと断層がすべる現象で、地震波を放射せず、海底が動いてもその動きがゆっくりなので津波は起こしません(図-2)。
この“スロースリップ”は2000年代初頭から日本の非常に密な地震観測網により検出されるようになりました。その後、日本だけでなく、世界中のプレート境界においても“スロースリップ”が検出されています。
現在では、プレート境界の断層では、“スロースリップ”と高速なすべり(通常の地震)の両方が発生していて、お互いに影響を及ぼしあっていると考えられ、重要な研究テーマとなっています。
“スロースリップ”と巨大地震との関連を示すものとして、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の例があります。
本震の2日前に発生した前震(マグニチュード7.3)の後に“スロースリップ”が発生し、それが本震の破壊開始点に向かって移動していったことが本震となる断層の破壊を促進させた可能性があること、等がこれまでの研究でわかっているということです(地震本部:“スロースリップ”より引用)。
もし“スロースリップ”がいつも(いつもとまでいわなくても多くの場合に)大地震の前に起こるとすれば、大地震の予知につながるということになります。
これまで宇宙からの観測の最前線について書いてきましたが、これからは海底の地震観測の最前線について書こうと思います。