第二十二段:東日本大震災から10年 ~想定外といわないために~

 先々週は「レベル1地震動」、「レベル2地震動」について、先週は「レベル1津波」、「レベル2津波」の考え方について書きました。
 今週は洪水を起こす雨量の「レベル1」、「レベル2」について書きます。

 

 実際には「レベル1津波」、「レベル2津波」という言い方がないように、「レベル1雨量」、「レベル2雨量」という言い方はありません。
 しかしながら、言葉はないものの、その考えは洪水ハザードマップに反映されています。

 

 昨年春、厚東川と中川の洪水ハザードマップが改定され、浸水の恐れのある家庭にはそのハザードマップが配布されました。
 以前配布されていた改定前の洪水ハザードマップに比べて、今回の改定後のハザードマップは相当広い範囲まで浸水することになっています。驚かれた方がたくさんいらっしゃると聞いています。

 

 実は改定前のハザードマップは「レベル1雨量」に対して、改定後のハザードマップは「レベル2雨量」に対して作成されているといっていいでしょう。
 河川の整備をする場合、すなわちダムや堤防を建設したり、川幅を拡張したり、といったことは、その河川の流域に過去どれくらいの大雨が降ったか、また人口や公共および私有財産がどれくらいあるか、といったことから数十年から百年に一度(非常に大きな河川では二百年に一度もあります)の豪雨に対して大丈夫なように整備計画が立てられます。

 

 ちなみに厚東川・中川は70年に一度の大雨に対して整備することになっています。
 その雨量は改定前のハザードマップの前提となっている2日間で335㎜です。
 ところがこの豪雨に対して整備するには大変な予算と時間が必要になるので、それよりも少し少ない雨量に対して大丈夫なように、まず全体のバランスを考えながら実際の工事は進められています。
 ですから整備のために計画していた豪雨が降ると洪水が起こることになります。
 この時の洪水の可能性を表したのが改定前のハザードマップです。

 

 一方、最近は「観測史上最大の」、などといった修飾語のついた豪雨が日本各地で記録され、堤防が決壊するなどして大洪水が頻発しています。
 そこで、考えられる最大の雨量(想定最大規模)を前提にハザードマップを作る、ということになりました。
 そのような雨が降る確率は約1000年に一度、という計算になっています。
 そして厚東川・中川は2日間で518㎜ということになっています。これが「レベル2雨量」に相当し、その結果の洪水を表したのが改定後のハザードマップです。

 

 これまで3回にわたって、「レベル1○○」、「レベル2○○」について書いてきました。
 簡単に言うと、「レベル2○○」は「想定外とは言わない」ために最大の○○を想定したもの、「レベル1○○」は一生のうちに数回は経験する可能性のある○○、と言えるでしょう。
 洪水で言えば、改定前のハザードマップの洪水は当然起こりうる、ということを前提に備える必要があります。

 

 改定後のハザードマップの洪水も最近の雨の降り方を見ていると千年に一度だから自分の一生の間には起こらない、と考えてはいけません。
 その千年が今年かもしれませんし、何しろ最近は「観測史上最大」の、すなわちこれまで経験をしたことのない雨量、ということですから千年に一度よりももっと稀かもしれません。
 このようなすごい雨が全国各地で降っていますから、改定後のハザードマップのような洪水は起こりうる、と考えて備えを怠らないことが肝要ですね。

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