第百二十一段:南海トラフ巨大地震に備える⑩
鈍感力を強みとし、72年も生きていると、少々のことでは驚かなく、またショックも受けなくなるのですが、この度だけは大きなショックを受けました。
3月7日、JAXAのH3ロケットの打ち上げ失敗です。
H3ロケットは、JAXAのこれまでのH-Ⅱロケットをさらにパワーアップし、経済性も追求した、日本のこれからの宇宙開発になくてはならないロケットなのです。
ですからその打ち上げ失敗は関係者に大きなショックを与えました。
私の場合、それ以上にショックを受けたのは、H3ロケットに搭載されていた地球観測衛星「だいち3号」(Advanced Land Observation Satellite-3: 略してALOS-3)(図)も同時に消え去ったことです。
実はこのALOS-3、来るべく南海トラフ巨大地震、首都直下地震をはじめとする大災害を想定して製作されていました。
その仕様の策定には、防災利用者の代表として私も関わりました。
また、JAXA、内閣府、リモートセンシング技術センター、全国17人の大学の研究者から構成されている「大規模災害衛星画像解析支援チーム」の座長も務めています。
この支援チームは、地震や風水害、火山などの大災害が起こったときに、JAXAや世界の衛星データをいち早く解析し、国や被災地へ届ける、というミッションの下に、2014年から活動をしています。最初から私が座長を務めています。
AIを使って自動的に被災の状況を判読する技術開発、その結果を迅速に提供するシステム開発、また実際に災害が起こった時を想定して実動訓練を行い、課題の抽出とその改善を繰り返し行っています。
実はその会議が、失敗の翌日の8日にありました。
雰囲気はご想像にお任せします。
南海トラフの巨大地震、首都直下地震が起こった時には、その直後から、いつどこで何を観測するか、といったシナリオも作成しています。
そのシナリオではALOS-3が主力になっているのです。そして多くの人命を助けることになっています。
今回の失敗で、そのシナリオが崩れてしまいました。
「ピンチはチャンス」といわれますが、ピンチをチャンスに変えることは至難の業です。
しかしやらなければなりません。
JAXAはきっと次は成功してくれるでしょう。南海トラフ巨大地震、首都直下地震は着々と迫っているのですから。