第十段:南海トラフ巨大地震が迫っている ~津波遡上高、世界記録、日本記録~
今週も津波にまつわる話を。
1970年代初め、ポセイドンアドベンチャーという映画が大ヒットしました。豪華客船が大津波に襲われて転覆、船底へ移動した数人だけが最終的には救助されるというハラハラドキドキの映画でした。
当時学生だった私は気が付かなかったのですが、後になって地震工学の研究を始めてその映画の大ウソに気が付きました。
映画では津波は30mを超す水の壁となって襲ってきます。しかし現実にはそのようなことは起こりません。
ポセイドンが航行していた陸地からかなり離れた海では、津波は穏やかな波で、海面がゆっくり上下するだけです。水の壁になるのは陸地に相当近づいてからです。
そのことは漁師さんはじめ船に乗っている人は良く知っています。ですから東日本大震災の時も、多くの船が全速で沖合に避難しています。
話変わって、世界で最も高いところまで到達した津波はどれくらいの高さまで到達したでしょうか(これを遡上と言います)?
答えは524m。アラスカ州の州都ジュノーの西方約200kmにリツヤ湾というところがあります。
この近くで1958年7月9日にマグニチュード7.7の地震が発生し、湾の奥で大規模な山体崩落(斜面崩壊)が起こりました。それによって海中になだれ込んだ大量の土砂や氷塊により、湾内で巨大な水しぶきが発生、対岸に押し寄せた波の高さは524mに及んだとあります。(Wikipedia、リツヤ湾大津波)。
では日本ではどうでしょう。
実は少し前まで理科年表によると日本で最も高かった津波遡上高は、84m以上とありました。
1771年4月24日(旧暦:明和8年3月10日)に発生した「八重山地震津波」です。石垣島の被害が最もひどく、約12,000人の人が津波で亡くなったようです。
84mも遡上するとはいったいどんな所だろうと、親しくしている活断層が専門の当時理学部教授の金折祐司先生と2012年3月に石垣島を訪問しました。八重山地震津波の痕跡は、大きな岩(津波石と呼ばれています)が陸地に運ばれていたりして、今もいたるところに見ることができました。
丘の中腹に、ここまで津波が遡上した、という記念碑がありました(写真)。
写真 八重山地震津波の到達場所の記念碑
地図で見ると、丘の頂上は標高約80m、ということは遡上高は40m程度!?
図書館に行って調べてみると、当時は戸板を使って遡上高を測ったとあります。詳しいその方法は分かりませんが、いずれにしても誤差が50%以上、ということになります。今は30m程度と訂正されています。
従って、日本で一番遡上高が高いのは東日本大震災の時の女川町笠貝島(無人島)の43.3mのようです。
(https://news.yahoo.co.jp/byline/nyomurayo/20170311-00068495/)