第百五段:首都直下地震⑤
この5月25日に東京都が公表した都の被害想定結果を再掲します。
被害想定には多くの前提条件と限界があるということを前回書きました。
私自身山口県の地震被害想定の委員長として、その時点での最新の研究成果、データを活用して想定精度を高めることに最善を尽くしました。
しかしながら、地震の発生(断層面上の一点で破壊が始まります)が想定した断層のどこから始まって(震源の位置)、破壊(断層のずれ)がどのようにどこまで伝わるのか、また断層のずれの量(すべり量とも言います)がどのように分布するのかと言った、いわゆる地震の発生メカニズム、また、発生した地震によって四方八方に広がる地震波がどのように伝わるのか、それによる地盤の揺れはどうなのか、これらは地下深い地殻の構造や、地層の構造などの影響を大きく受けますが、地下の構造が十分な精度で分かっていません。
などなど、被害想定を実施する上での科学的な課題は多く残されています。
科学的な知見に基づいて定量化することができる事項は限られており、それらに対しては何とか定量的に算定していますが、それですらいくつかの仮定、例えば震度と家屋が全壊する割合の関係には大きなばらつきがありますが、コンピュータでシミュレーションするためにエイヤッと、一本の線で両者の関係を表すなどして算定しているのです。
さらには被害想定結果がすべての被害事象を表しているわけではありません。
定量的に表された被害数値のみをもって、地震被害の全体像とすることは被害を過小評価することに繋がります。
こう書くと、地震被害想定は全くアテにならないように思われるかもしれません。
ただ私の感覚では、山口県の地震被害想定結果は、そんなには大きくは外れないのではないかと思っています。
それでも今起これば実際の被害と想定結果との間には倍、半分の違いはあると思っていますが。
山口県の南海トラフの巨大地震の被害想定(平成26年3月)では、最悪の場合614人の死者を想定しています。
しかしながら私はこの数字はゼロにできると確信しています。
その話はまた別の機会に譲りますが。
山口県の地震被害想定と東京都のそれとの決定的な違いは、山口県の地震被害は多分想定結果をそれほど超えることはないだろう、と考えられるのに対して、東京都の場合は、表に示した数字では多分済まないだろう、特に人的被害については、ということです。
そのため都の地震被害想定報告書には、“定量的に示すことが困難な事項についても、定性的な被害シナリオとして示し”てあります。
次回以降、この定性的は被害シナリオを説明していきたいと思います。