第四十八段:災害情報の収集を ~「事前放流」と「予備放流」~

 「事前放流」がそう簡単ではないことを書きたいと思いますが、実は「事前放流」そのものを理解することもそう簡単ではないのです。

 

 そこでまずはダムの基礎知識から。
 ダムには洪水から流域を守る「治水」水を利用するための「利水」、さらに最近は「環境保全」もこれらに加わって3つの目的があります
 そしてダムは大別して「多目的ダム」と「利水ダム」に分けられます。

 

 多目的ダムは水道水用、工業用水用、灌漑用、発電用などの「利水」と共に、「治水」の複数の用途を兼ねたダムです。
 多目的ダムには「治水」の用途がありますが、一方の利水ダムには「治水」の用途はありません。ここが大きなポイントです。

 

第四十八段:災害情報の収集を ~「事前放流」と「予備放流」~

 

 図-1は多目的ダムの水位調整の説明図、図-2は利水ダムの水位調整の説明図です。

 

 多目的ダムの方は図の下の説明文にあるように「洪水調節容量」と「利水容量」を兼ねる部分(容量)があります。
 「洪水調節容量」は大雨の時に洪水を防ぐために放流する水量です。
 「利水容量」は様々な目的のために利用する水量です。
 「洪水調節容量」と「利水容量」を兼ねる容量があるということは、最初から洪水を防ぐために利水部分を放流することが考えられているということです。
 大雨が予測され、ダムの水位が危険な状態にまで上昇しそうなときは、事前にこの兼ねる部分の放流が行われます。
 実はこの放流、大雨の前に放流されるのですが、『事前放流』とは言いません。『予備放流』と言います。

 

 一方の図-2の利水ダムの方ですが、「洪水調節容量」と「利水容量」とは兼ねていません。
 洪水調整はあくまでも非常用洪水吐(こうずいばき)で調整し、利水用の水は使わない、と言うのが基本的な考えです。
 ところが最近の豪雨ではダム自体も危険な状況になることが多く、利水部分も事前に放流して水位を下げておくことが始まりました。
 これが『事前放流』です。

 

 お分かりになりましたか?

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