第四十九段:災害情報の収集を ~続「事前放流」と「予備放流」~

 前回では多目的ダムと利水ダムの水位調整の図を用いて、『予備放流』と『事前放流』の違いを説明しました。今回も同じ図を用いて「事前放流」がそう簡単ではないことを説明します。

 

第四十九段:災害情報の収集を ~続「事前放流」と「予備放流」~

 

 その前に、図の補足説明を。

 

 ダム本体の上方に「非常用洪水吐(ひじょうようこうずいばき)」と書いていますが、この位置にある洪水吐(通常複数のゲートがあります)は、一部のゲートを「常用洪水吐」に使い、残りのゲートを「非常用洪水吐」に使うという形式のダムも多くあります。

 

 さて、豪雨が予想されるときに、放流することによってあらかじめダムの水位を下げて豪雨に備える、この“事前の放流”には『予備放流』と『事前放流』があること、前者はあらかじめ“織り込みズミ”の放流であるのに対して、後者はそうでないという所に大きな違いがあります。
 ダムの管理者は一般に国や都道府県です。
 一方、水の所有者は上水道事業者や工業用水を使う企業等です。
 すなわち、ダムの管理者である国や都道府県は、水という他人の財産を預かっているわけですから、勝手に放流するということはできません。

 

 『予備放流』はあらかじめ放流することを“織り込みズミ”で、様々な取り決めがなされていますのでそう問題ないのですが、『事前放流』は“織り込みズミ”でない、いわば他人の財産を捨てることになるわけですから、いかに国や都道府県と言えども簡単にはできないわけです。
 大きな課題の一つが、『事前放流』をしてダムの水位を下げて豪雨に備えた、しかし予想されていた雨の量よりも実際の降雨量が少なくて、ダムの水位が元に戻らなかった、ということも十分考えられます。
 もし水位が元に戻らなければ水の保有者が財産を失うというだけでなく、水道水や工業用水が不足して、給水制限などをしなければならなくなり、私たちの生活にも大きな影響がでることになります。

 

 『事前放流』を安心して実行するためには精度の良い降雨予測が不可欠になりますが、これが難しいんです。

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