第二百六段:地震直前予知への挑戦⑤
ここ数週間にわたって、地震の直前に見られる宏観現象について研究してこられた先生方のお話を書いてきました。
いよいよその核心に迫る最新の研究のお話を書きたいと思いますが、その前に1つのエピソードを。
多くの皆さんも気づかれたと思います。
私がまだ小学生の時、教室に貼ってある世界地図を眺めて、南アメリカ大陸の出っ張ったところ(ブラジル)が、アフリカ大陸のくぼんだ所(ナイジェリア、カメルーン、ガボンのあたり)にぴったりとはまるのではないか、と。
その後もそう思いつつ世界地図を眺めることがありましたが、そのまま大学生になりました。
たしか1971年、大学の専門課程に進んだ2年生の時だったと思います。
ある日、地球に関する本を読んでいたのですが、そこには驚くべきことが書いてありました。
かつてウェゲナーという人がいて、私と同じことに気が付いて(正確には、ウェゲナーの気付いたことに私も気が付いた、というべきでしょう)、地球は昔一つのパンゲアという超大陸があるのみで、現在の大陸は、それが裂けてバラバラになり、今日の位置まで移動した、と考えたのだと。
さらに私を驚かせたのは、彼が地質学、古生物学、動物地理学、植物地理学、古気候など、およそ考え得るあらゆる方面からその立証を試みていたことです。
「科学する」とはこういうことか、と学生の身ながら強く感動したことを思い出します。
ウェゲナーがこの説を最初に論文として発表したのが1912年のことでしたが、その時この説は地質学者から激しい批判を浴びたようです。
なぜならウェゲナーは気象学者であり、地質学者から見ればこの分野においては全くの素人と思われたからです。
しかしウェゲナーはその批判にも負けず着々とその証拠を集めたのです。
それらの大部分は正しいものでしたが、残念ながらついに生前には彼の説は受け入れられませんでした。
その理由は、大陸を移動させる原動力が分からなかったからです。
ウェゲナーの説が正しいことが証明されるには、海底の観測技術が進んで海底が拡大していることが明らかになり(海底拡大説)、さらにプレートテクトニクスという理論にまとめられるまで、ウェゲナーの死後30年の歳月が必要でした。
地球観測が盛んに行われ、プレートテクトニクス理論にまとめられたのが1960年代のこと。
まさにその直後に私はそのことを知ったのです。
地震直前予知への挑戦のことを考えると、50年以上前のこのことを思い出すのです。