第三十五段:衛星データを防災に活かす ~続続続JAXAの衛星データを山口県へ~

 いよいよ神風のお話を。

 

 その神風とは、「地方創生」の一環として、政府が打ち出した中央省庁や独立行政法人などを地方に移転する、という国の一大事業。
 平成27年(2015年)初めのこと。
 これに山口県は3機関の移転を要望。
 幸いにもその中の一つにJAXAの衛星データのバックアップ機能を、というのを入れて頂いた。

 

 最終的に決定されるのがその年度末。
 決定まで1年しかない。
 それから県の担当の方たちとの東京通いが始まった。
 県の中心人物はのちに総合企画部長になられ、現在県産業技術センターの副理事長を務めておられる北村敏克さん。

 

「先生、明日東京へ一緒に行って欲しい」
と北村さん。
「旅費は」
と私。
「無いから先生自分のお金で行って欲しい」。

 

 以後何度も東京へご一緒したが、いつも自分の研究費で出張。

 

 文部科学省へ行く。
 二度目の文部科学省訪問の時、初めて会う担当の女性の副課長に説明。
 明らかに迷惑そうな表情。
“なんで、JAXAの機関を山口県に移転(新設)しなければならないの?”
といった感じ。
 実はこれは文部科学省の常とう手段。
 それまでアドミッションセンター新設の時や、工学部長として様々な概算要求(予算の獲得)の説明に行った時も最初はみなそんなもの。
 免疫のできている私はそれくらいではへこたれない。

 

 一生懸命衛星データのバックアップ機能の必要性を説く。
 彼女、
「なんで山口県でないといけないの?」
 間髪を入れず
「山口県は災害の少ない県です。それに山口大学のこれまでの衛星データを使った防災に関する高い研究力があります。」
 自分で言えないことを見事に北村さんが答えて下さった。

 

 何度か通ってそんな問答を繰り返し、ついに文部科学省を説得。
 次は内閣府。
 この時は文部科学省は味方。
 だが、応援演説はしてくれない。
 見ているだけ。
 私は内閣府の若者に向かって、バックアップ機能の必要性を熱く語る。

 

 2度目、3度目となると
「三浦先生の言いたいことは分かったからもういい。安全な国土形成に貢献するということはわかった。しかしこれは地方創生の一環で進める事業だ。県はいったい何をするのか?」
「衛星データを使って新しい産業を起こします。」
と北村さん。

 

 後日談になるが、そのような経緯もあって県は産業技術センター内に「宇宙データ利用推進センター」を設置、ここが中心になって県内企業と衛星データを使った新しい産業を起こす取り組みを熱心に行っている。
 内閣府での発言の責任を取って(?)北村さんはこのセンター長を務めておられる。
 私は「県内に新しい産業を」と、一言も言っていないがプロジェクトディレクターを務めている。

 

 幸いにもJAXAの衛星データが山口県に来ることになりそうだといった大詰めの時に、JAXAの協力を得て関係機関に説明するために、防災を中心に作成したのが添付図である。
 地球観測衛星「だいち2号(ALOS-2)」から直接山口県に衛星データを下ろすことができないので、非常時には通信衛星「きずな」を経由して、山口県にデータを下ろすという考えである。

 

 図の説明には山口側のアンテナの直径は1.1mと書いてある(図にはアンテナは描いてないが)。
 それを読んで北村さん、
「(小数点を指して)これはゴミですよね、1.1mではなく、11mですよね?」
「いや、1.1mです」
とハエたたきで叩くようにピシャリとJAXAの方。

 

 このように多くの人が大変な苦労をして、JAXAの衛星データが山口県に来ることとなった。

 

第三十五段:衛星データを防災に活かす ~続続続JAXAの衛星データを山口県へ~

図 JAXA、山口県、山口大学の三者協力の説明

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