第五十段:災害情報の収集を ~「事前放流」は難しい~

 早いもので、このシリーズも50回目になりました。
 ある時これを読んでいただいている方から、やはり240回くらい続けられるのですか?と聞かれました。
 すぐにはその意図が分からず、「いいえ、書けるだけ、脇社長から『もういい』と言われるまで書く予定です」、とお答えしたのですが、その方と別れた直後、吉田兼好の徒然草は確か二百数十段(正確には244段)なので、そのことだったのか、と気が付きました。
 思わぬ時に教養は試されるものですね。

 

 さて、『事前放流は難しい』ということを書いていますが、今回は技術的な難しさを。

 

 ダム本体の下部にある「洪水吐」はあまり大きくなく、ここから放流してダムの水位を低下させるのには非常に長い時間がかかります。従って、事前放流をするかどうかの判断は実際に大雨が降るはるか前から始めなければなりません。

 

第五十段:災害情報の収集を ~「事前放流」は難しい~

 

 図は国土交通省が定めた事前放流の開始基準を説明したものです。ここでは概略の説明にとどめます。

 

 

 気象庁の予測により、ダムの上流に大雨が降りそうで、その予測される雨量の総量(「予測総降雨量」)が、ダムごとに決めてある「基準降雨量」を超えそうな場合、その3日前から事前放流が始められます。
 それくらい前から始めないと間に合わない、ということをこのことは意味しています。

 

 ここで問題になるのが、3日以上前から精度よく降雨量が予測できるのか、ということです。
 気象庁からは週間天気予報などで数日前から天気予報が発表されますが、翌日の天気予報はかなりの確率で当たりますが、数日後は当たる確率が低くなることは皆さん実感されていることと思います。
 降雨量になるとさらに難しく、以前予測降雨量がどれくらい当たるかを調べたとことがあります。
 その結果は、1時間後はほぼ予想通り、しかし3時間後となると50%くらいの精度でしかありませんでした。
 ましてや3日後となると、それはもう神業でしかありません。

 

 他人の財産である水を、神業で降雨量を予測して流すという「事前放流」をなぜしなければならないのか、と思われるかもしれません。
 しかしそこまでしなければ人命を救えない(あるいは人的被害を最小限に食い止める)というような雨が最近は降っている、ということなのです。

 

 逆に予想をはるかに超える雨が降り、事前放流では間に合わなくなった場合には非常用洪水吐をフルに活用して緊急放流が行われます。
 その緊急放流はダムへ流れ込んでくる水量以上を放流することはありません。

 

 一部の報道で、あたかも緊急放流によって被害が大きくなった、というようなことがいわれましたが、これ全くの事実誤認です。
 ダムがなかったらもっとひどい被害になっていたことは間違いありません。

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