第三十段:衛星データを防災に活かす ~衛星データによる陸前高田市の津波被災状況の解析~

 衛星データを防災に使う研究を始めたのが2008~2009年のこと。

 

 ちょうどそのころ、2009年7月に「平成21年中国・九州北部豪雨」が起こり、防府市、山口市を中心に土砂災害や洪水災害が起こりました。

 

 早速JAXAに「だいち」の衛星データを提供して頂き、防府市の土砂災害の解析を「光学センサー」と「マイクロ波センサー」を用いて試みました。

 

 土砂災害が起こった場所を衛星データを使って見つけることができるかどうか、という基本的なことを循環環境工学科一期生の卒業論文として取り組んだのですが、我々自身が全くの初心者で、技術の蓄積もなければ、その当時はほかの機関でもこの分野の研究はほとんど行われておらず、試行錯誤の連続で、なかなか難しいことを実感しました。

 

 

 そのころ田中先生と私はたびたびインドネシアのバリ島にあるウダヤナ大学を訪問していました。

 

 ウダヤナ大学にはJAXAとインドネシアの宇宙局であるLAPANが協力して、衛星データを使って海洋環境の研究を行う研究所CReSOSが設立されたばかりでした。

 

 田中先生はこの設立に大きく関わっておられ、山口大学理工学研究科もCReSOSと共同研究を進めようという目的で足を運んでいたのです。

 

 当時私は工学部長と理工学研究科長を兼任していましたので。

 

 

 そのさなか、2010年にインドネシアのジャワ島のほぼ中央にあるメラピー火山が大噴火しました。

 

 そこで、田中先生の提案もあり、大学院生3人をJAXAに研修生として受け入れて頂き、火砕流の範囲や、噴火による植物の被害の範囲を判定する研究を行いました。

 

 これでだいぶ衛星データ解析の技術を研究室に蓄積することができました。

 

 

 そして2011年3月11日、あの東日本大震災が起こりました。

 

 早速JAXAから三陸地方の衛星データを提供して頂き、津波の被害状況を解析しました。

 

 図は、陸前高田市の津波被害の範囲を求めたものです。

 

第三十段:衛星データを防災に活かす ~衛星データによる陸前高田市の津波被災状況の解析~

図 東日本大震災による陸前高田市の津波浸水域の解析

 

 

 図(a)は光学センサーのR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色を使ってちょうど写真のように合成した図です。

 

 被災の状況がよく分かります。

 

 図 (b)は近赤外線も使って植物が地震の前と後でどのように変化したかを使い、植物が枯れた範囲を津波が襲った範囲と考えて作成したもので、図 (c)はマイクロ波センサーを使って範囲を推定したものです。

 

 図 (d)は日本地理学会が現地を調査して津波の範囲を求めたもので、これが正解ということになります。

 

 図(d)と比べて、図(b)も (c)もほぼ同じ範囲を示しています。

 

 ようやく学会で発表できるようになりました。

 

 と同時に、衛星データは防災に使える、と実感しました。

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