第二十一段:東日本大震災から10年 ~レベル1津波とレベル2津波~

 今週は「レベル1津波」、「レベル2津波」の考え方について書きます。

 

 実際には「レベル1津波」、「レベル2津波」という言葉は使われず、「レベル2津波」は「最大クラスの津波」と言われています。
 「レベル1津波」には特に言い方はないようです。

 

 東日本大震災後、平成23年7月に国土交通省が「津波防災まちづくりの考え方」の緊急提言を行っています。
 その概要は以下の通りです。

 

1.津波災害に対しては、今回のような大規模な津波災害が発生した場合でも、なんとしても人命を守るという考え方に基づき、ハード・ソフト施策の適切な組み合わせにより、減災(人命を守りつつ、被害を出来る限り軽減する)のための対策を実施する。
2.このうち、海岸保全施設等の構造物による防災対策については、社会経済的な観点を十分に考慮し、比較的頻度の高い一定程度の津波レベルを想定して、人命・財産や種々の産業・経済活動を守り、国土を保全することを目標とする。

 

 実は、この1.で言及されている大規模な津波が「最大クラスの津波」と呼ばれ、あえて言えば「レベル2津波」に相当し、数百年から数千年に一度の津波となります。
 様々な可能性を考えて、もう二度と「想定外」とは言わないぞ、という考えの基に設定されています。

 

 このような津波に対しては、海岸保全施設等の構造物、すなわち防潮堤や津波防波堤、堤防など(以下護岸構造物と言います)が壊れても人命は守るような対策、すなわちハザードマップの作成や情報伝達システムの整備、防災教育、訓練の実施などの、いわゆるソフト対策と併せて、何としても人命を守る、という考えです。

 

 これに対して、2.で言及されている「比較的頻度の高い一定程度の津波レベル」が「レベル1津波」に相当します。
 この津波に対してはハードで、すなわち護岸構造物でしっかりと生活の場である住宅や会社、工場、商店などの働く場を守ろう、という考えです。
 東日本大震災の前はこの津波がハザードマップの前提条件になっていました。

 

 さて、ここで注意しないといけないのが、「最大クラスの津波」は護岸構造物を超えること(越流といいます)が前提となっています。
 その際、護岸構造物が壊れてしまっては生活の場は失われてしまいます。
 そこで、津波が越流しても壊れない粘り強い構造物の研究が進められています。
 たとえ越流しても護岸構造物が壊れなければ、津波の勢いはかなり低下し、生活の場の被害の様子はずいぶん異なります。

 

 写真は、東日本大震災の津波で壊れた古い堤防(手前)と全く壊れなかった新しい堤防です。
 もし堤防がすべて新しかったら、写真右手にあった住宅街の被害は全く異なったものになっていたでしょう。

 

第二十一段:東日本大震災から10年 ~レベル1津波とレベル2津波~

写真 東日本大震災後の岩手県野田村十府ヶ浦での新旧の堤防の状況

古い堤防は津波で破壊され、このため多くの住家が全壊した。

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