第二十八段:東日本大震災から10年 ~衛星データを防災に活かす~
「東北は、私たちが頑張って何とかします。西日本にもいずれ大きな地震がきますね。先生はこれと同じような悲劇が再び起こらないように、しっかりと準備の研究をして下さい。」
当時気仙沼市防災危機管理課長の佐藤健一さんのこの一言が、のちにJAXAの衛星データを山口に誘致することにつながったのです、と第24段で書きました。
今回からその辺のお話しをしたいと思います。
平成18(2006)年度から21(2009)年度の4年間、私は工学部長を務めました。
その最初の年、工学部機械工学科の教授としてJAXAから来られた田中佐(たすく)先生が着任の挨拶に工学部長室に来られました。
田中先生はJAXAで地球観測衛星の打ち上げ・運用プロジェクトリーダーを務めておられました。
話は自然に衛星リモートセンシングに及びました。
JAXAは様々な地球観測衛星を打ち上げていて、世界中の降雨状況、大気中のCO2やチリの濃度、海面温度、氷河や熱帯雨林の状況など様々な地球環境に関する観測を行っています。
その時私はこういったのをよく覚えています。
「私は防災に関する研究をしています。いつかご一緒に衛星データを使って防災に関する研究ができるといいですね。」
なぜよく覚えているかと言うと、これは全くのサービス精神から言った言葉で、心の中では「衛星リモートセンシングは防災には使えない」と思いこんでいたからです。
つまり、心にもないことを言ったということですね。
それには理由があって、私が防災研究所の助手になった年、1976年のことです。
教授から、アメリカがランドサットという人工衛星を打ち上げて地球観測を始めたらしい。
大阪でその説明会があるから、ランドサットが防災に使えるかどうか話を聞いてきてくれ、といわれ、その説明会へ出席しました。
地球観測衛星はほぼ南北の円軌道で地球の周りを約100分で一周しています。
人工衛星は同じ軌道を回っていますが、その間地球は自転していますので、地上の観測する場所は少しずつずれてきます。
ランドサットの場合、全く同じところを観測するのが18日後(回帰日数、また時間分解能といいます)になります。
このことは最悪の場合、災害が起こって撮影できるのは18日後ということになります。
しかも空間分解能(デジタル写真のモザイクの大きさに相当)が80mと非常に荒い。
当然ながら「ランドサットは防災には使えません」と教授に報告しました。
このようなことがあって、衛星データは防災には使えないと思い込んでいたのです。
しかしながら田中先生との出会いが私の研究テーマを大きく変えることになります。
私がサービス精神で言った一言をポジティブに受け止めて、その後も田中先生はよく学部長室を訪ねてこられて、最新の衛星リモートセンシングの話を聞かせて下さいました。
この間の技術の進歩は著しく、JAXAの打ち上げている地球観測衛星「だいち」(ALOSとも言います)の空間解像度は白黒であれば2.5m、カラーでも10m、しかも数日後には撮影可能、ということですので、これは防災に使える、という確信のようなものが湧いてきました。
当時はまだほとんど防災には使われておらず、新しい研究分野が開拓できるのではないか、と思うようになったのです。
図 JAXAの地球観測衛星「だいち」
(JAXAのホームページより)