第二百二十四段:南海トラフ巨大地震とその時代⑬安政江戸地震(3)
1855年の安政江戸地震ののち大流行した鯰絵ですが、その背景には多分地震の直前に多くのナマズが騒ぐという異常行動が見られたのではないかと思います。
このなまずに限らず地震直前の動物の異常行動はその約80年後の1923年に起こった関東大震災でも報告されています。
そこで動物の異常行動が地震予知に使えないかという研究の試みが行われたようですが、いつの間にか消えてしまいました。
その一方で、寺田寅彦は1924年から1929年の間、伊豆半島西岸の伊豆の国市の沖合にある淡島漁港の漁獲量と地震の発生回数との間に有意な関係があることを見出しています。
魚の行動に地震が関係があることを示唆しています。
また1930年に起こった北伊豆地震では発光現象が広い範囲で見られ、寺田寅彦はこの発光現象を、地殻と空中の間に著しい電位差が生じ、空中放電するからではないかと考え、「この現象は、地震学上必ず軽視することのできない1つの問題を提供する」とも書いています。(泊次郎著、日本の地震予知研究130年史、東京大学出版会)
時代が下って、1995年阪神・淡路大震災が発生、この時も多くの前兆現象が観測されました。
すでにここで紹介したように、当時大阪市立大学教授の弘原海(わだつみ)清先生は多くの人の協力を得て前兆現象を集め、それをまとめて出版されています。(前兆証言1519!(東京出版)、大地震の前兆現象(KAWADE夢新書))。
さらには大阪大学の池谷元司先生は弘原海先生の動物の異常行動を実験的に確認されています(図-1、地震の前、なぜ動物は騒ぐのか、(NHKブックス822))。
図-2にその中の一つの実験を簡単に示します。
大阪大学の500トンのプレス機で断面15㎝x15㎝、高さ30㎝の花崗岩に圧力を徐々にかけて行きます。
そうすると花崗岩に小さなヒビが発生、やがて図中のX型の破線のような割れ目になり、この割れ目が大きくなり300トンくらいで完全に破壊しました。
この花崗岩のそばにはウナギ、ドジョウ、メダカ、カメなどの動物を置き、併せて電磁波を観測するセンサーも設置していました。
すると花崗岩にヒビが入る頃から動物は異常な動きを始め、破壊したときには飛び跳ねたり、のたうち回ったりしました。
その間、花崗岩から電磁波が出ていました。
そのほかにも実験を重ね、池谷先生は動物の異常行動は電磁波によるもの、と結論づけられています。
鯰絵から140年後のことです。
それにしても寺田寅彦の慧眼には驚くばかりです。